そもそも2025年問題（2025年の崖）とは何か

「2025年問題」とは、日本が直面する社会的・経済的な課題を指す言葉です。2018年に経済産業省が「DXレポート」を発表してから、課題を象徴するワードとして頻繁に使われるようになりました、
同レポートは、日本企業がDX（デジタルトランスフォーメーション）を推進しない場合、2025年以降に最大で年間12兆円の経済損失が生じる可能性があると警告しています。

レガシーシステムの老朽化とIT人材不足

この「2025年の崖」とも称される問題の原因とされているのは、既存のレガシーシステムの老朽化やIT人材不足、さらには市場の変化に対応できない企業体質です。
特に不動産業界では、紙ベースの契約や対面での手続きなど、アナログな業務プロセスが依然として多く存在します。業務効率の低下や顧客ニーズへの対応遅れが生じ、市場競争力の低下につながるリスクは否めません。

高齢化社会の進行が課題に拍車を

さらに、2025年は「団塊の世代」が全員75歳以上になり、およそ5人に1人が後期高齢者となります。高齢化社会の進行に伴い、空き家の増加や不動産需要の変化が予測されており、不動産業会社が迅速に対応するためにもDXの推進が不可欠です。
しかし、多くの中小不動産会社では、現状としてDX推進のためのリソースやノウハウが不足しています。この状況を打破するためには、業界全体でのDX推進に向けた取り組みや、政府の支援策の活用が不可欠です。

不動産業界への影響

不動産業界におけるDXの遅れは、業務効率化の遅延を招き、他業種との格差を拡大させるリスクがあります。

従来のアナログな業務プロセスに依存し続けると時間やコストの無駄が生じ、生産性の向上が阻害されるでしょう。さらに、顧客ニーズの多様化が進む中、DXの遅れは顧客満足度の低下とビジネスチャンスの損失につながります。

オンラインでの物件内覧（バーチャル内覧）や電子契約、IT重説（オンラインによる重要事項説明）の促進などによって、デジタルサービスを求める顧客に対応できない企業は、競争力を失うリスクが高いです。

また、人材不足問題の悪化と働き方改革の停滞も懸念されます。DXを推進しない企業では、業務の効率化が進まず、従業員の負担が増大し、結果として人材の確保や定着が難しくなるでしょう。

中小不動産会社が直面する課題

中小不動産会社におけるDX推進には、資金不足が大きな障壁となっています。新たな技術導入や人材育成には多額の投資が必要ですが、かぎられた予算の中でこれらを賄うのは容易ではありません。

さらに、社員のITリテラシーの不足も深刻な課題です。デジタルツールの導入を試みても、従業員が適切に使いこなせなければ、効果を十分に発揮できず、かえって業務負荷が増大するおそれがあります。

また、既存システムとの連携の難しさも見逃せません。古い業務プロセスやレガシーなシステムとの統合は複雑であり、スムーズな移行を阻む要因といえるでしょう。

これらの課題を克服するためには、経営層と現場が一体となってDX推進に取り組む姿勢が不可欠です。実現可能な部分からスモールスタートし、外部の専門家や補助金の活用も検討すれば、効果的なDX推進が期待できます。

不動産業界におけるDXの必要性

不動産業界は、従来からのアナログな業務プロセスが根強く残る一方で、顧客ニーズの多様化や市場環境の変化に直面しています。
この章では、不動産業界におけるDXの必要性について、次に挙げる3つの視点から見ていきましょう。

・業務効率化と生産性向上
・顧客ニーズの多様化への対応
・競争力強化と市場適応

業務効率化と生産性向上

デジタル技術の導入は、不動産業務の自動化と効率化を促進し、業務効率を飛躍的に向上させます。たとえば、AIチャットサービスの導入により、顧客からの問い合わせ対応を自動化し、従業員の負担軽減が可能です。

また、電子契約サービスの活用により、契約手続きのオンライン化が実現し、書類のやり取りや対面での手続きにかかる時間を大幅に削減できます。契約締結までの期間短縮やコスト削減が期待できるでしょう。

デジタルツールの活用により、業務プロセスの効率化と生産性の向上が実現し、従業員はより付加価値の高い業務に集中できる環境が整います。結果として、企業全体の競争力強化につながるでしょう。

顧客ニーズの多様化への対応

近年、不動産業界では顧客のニーズが多様化しており、オンラインによる内覧や非対面契約など、デジタル技術を活用したサービスの需要が高まっています。特に、新型コロナウイルスの影響により、非接触型のサービス提供が求められるようになりました。

360°パノラマVRを活用したバーチャル内覧サービスの導入により、顧客は自宅にいながら物件の内覧が可能となり、内見にかかる時間や労力を削減できます。遠方からの引っ越し希望者や多忙な顧客にも柔軟に対応できるようになりました。

また、非対面契約の実現には、電子契約システムやITを活用した重要事項説明（IT重説）の導入が進められています。

契約手続きの効率化と顧客の利便性向上が図られ、顧客満足度の向上および成約率の増加が見込まれるでしょう。

競争力強化と市場適応

不動産業界におけるDX推進は、業務効率化や顧客対応の向上だけでなく、新たなビジネスモデルの構築にも寄与します。たとえば、オンラインプラットフォームを活用した物件のマッチングサービスや、AIを用いた価格査定などです。

これらの新たな取り組みにより、従来の業務プロセスを革新し、市場の変化に柔軟に対応できる体制を整えられるようになります。また、データ分析を活用したマーケティング戦略の最適化により、顧客のニーズを的確に捉えたサービス提供が実現します。

さらに、リモートワークの推進やクラウドサービスの導入により、働き方改革を進めていけば、優秀な人材の確保や従業員の満足度向上にもつながるでしょう。組織全体の、生産性向上と競争力強化が期待できます。

DXの推進は市場の変化や、顧客の多様なニーズに迅速に対応できる企業体質を構築し、長期的な成長と持続可能なビジネスモデルの確立を可能とするものです。不動産業界におけるDXの重要性は、今後さらに高まっていくでしょう。

不動産会社のDX戦略による業務変革に関しては、以下の記事でくわしく取り上げています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
不動産会社の未来を拓くDX戦略！AI・IoT・スマートホームによる業務変革

中小不動産会社のDX推進事例

近年、中小不動産会社においてもDX（デジタルトランスフォーメーション）の推進が急務です。業務の効率化や顧客満足度の向上、競争力の強化を図るため、各社がさまざまなデジタルツールやシステムを導入しています。
特に、業務の属人化解消や効率化を目的とした取り組みが注目の的です。この章では、具体的な成功事例を通じて、中小不動産会社のDX推進の現状と効果を探ります。

業務の属人化解消と効率化

神奈川県に拠点を置く中小不動産A社は、収益用不動産の売買や賃貸管理を手掛ける中小不動産会社です。同社は、顧客との連絡業務が特定の社員に集中し、業務の属人化が課題となっていました。

この課題を解決するため、同社はあるツールを導入し、ワークフロー機能を活用して業務の標準化と効率化を図りました。この機能により、顧客への連絡や手続きが一元管理され、担当者間での情報共有がスムーズになったのです。

さらに、顧客とのコミュニケーション手段を見直し、ツールを通じて迅速かつ的確な情報提供を実現しました。

顧客コミュニケーションの改善

東京都に拠点を置く不動産管理会社B社は、主に上場企業の従業員や公務員の顧客が資産形成のために購入した物件を取り扱っています。同社は、オーナーとの接点が少ない点を課題として認識していました。

この課題を解決するため、同社はあるシステムを導入しました。このシステムの導入により、社内外のコミュニケーションが活性化し、報告書の印刷費や郵送料、封入作業に費やす時間も削減されました。

さらに、オーナーとのやり取りが電話からチャットに移行したので、気軽に連絡を取り合える環境が整備されたのです。オーナーからのフィードバックも増加し、双方向のコミュニケーションが実現しました。

データ活用による提案力強化

不動産管理事業を核として、豊かな住環境づくりに取り組んでいる企業C社は、顧客に対する提案力の強化を目指し、データの可視化に注力しています。

物件の収支状況や入居者情報などをリアルタイムで確認できるデジタル環境を整備しました。さらに、蓄積されたデータを分析し、新規顧客に対して最適な提案が可能となりました。顧客からの信頼性が向上し、長期的な関係構築にも寄与しています。

データ活用による自社ホームページで差をつけるための、中小不動産会社の成功の鍵に関しては、以下の記事で特集しています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
ホームページで差をつける！中小不動産会社向けデータ活用の成功の鍵とは？

DX推進のための3つのステップ

DXを効果的に推進するためには、計画的かつ段階的なアプローチが必要です。この章では次に挙げる、DX推進のための3つのステップをくわしく見ていきましょう。

・STEP1：現状分析と課題の明確化
・STEP2：適切なツールの選定と導入
・STEP3：社員のデジタルリテラシー向上

STEP1：現状分析と課題の明確化

DXを推進する第一歩は、自社の現状を正確に把握し、課題を明確化する取り組みです。業務プロセスの各段階を詳細に分析し、非効率な部分や改善の余地がある領域を特定します。

この作業により、デジタル技術導入の優先順位を設定できるようになるでしょう。現状分析の際には、従業員からの意見収集も重要です。

現場の声を反映させていけば、実際の業務フローに即した課題を抽出でき、より実効性の高いDX推進計画を策定できます。なお、顧客からのフィードバックも収集し、サービス提供の観点からの課題も洗い出しましょう。

課題が明確化されたら、次にDXの目的を具体的に設定します。たとえば、業務効率化、顧客満足度向上、新規サービスの創出など、目的を明確にすればDX推進の方向性が定まり、組織全体での共通認識を持てるでしょう。

目的設定後は、具体的な目標やKPI（重要業績評価指標）を設定し、進捗状況を定期的に評価します。DX推進の効果を数値的に把握でき、必要に応じて戦略の修正や改善を行えるようになるでしょう。

STEP2：適切なツールの選定と導入

自社の業務内容や課題を明確に把握し、それに対応するデジタルツールの選定が重要です。たとえば、物件管理や顧客対応の効率化を目指す場合、クラウド型の不動産管理システムやCRM（顧客管理システム）などのデジタルツールの導入が考えられます。

ツール選定時には操作性やコスト、サポート体制などの総合的な評価が必要です。特に中小企業では、初期投資やランニングコストが負担となるため、費用対効果の慎重な検討が求められます。

導入後の効果を最大限に引き出すためには、社員への適切な研修やサポートが欠かせません。新しいツールの操作方法や活用方法を周知徹底し、現場でのスムーズな運用を促進する姿勢が重要です。

また、ツール導入後も定期的な評価と改善を行い、業務プロセスの最適化を継続的に進める必要があります。変化する市場環境や顧客ニーズに、柔軟に対応できる体制を構築できるでしょう。

STEP3：社員のデジタルリテラシー向上

DX推進の成功には、社員一人ひとりのデジタルリテラシー向上が不可欠です。デジタル技術やデータを業務に活用するための基本的な知識とスキルが欠如していると、導入したツールや技術が十分に活用されません。

社員教育や研修を通じて、デジタル技術に対する理解と活用能力を高める取り組みが求められます。具体的には、デジタル技術の基礎理解、データ活用と意思決定スキルの向上、業務効率化のためのデジタルツール研修、セキュリティ意識の向上などです。

研修を効果的に進めるためには、経営層のリーダーシップや継続的な学びの提供、実務に直結する内容の研修設計が欠かせません。トップダウンでDX推進の意義を示し、従業員の意識を高め、定期的な学びの場を提供し、習慣化を目指す必要があります。

社員のデジタルリテラシーが向上すれば業務改善や生産性向上、新規ビジネスモデルの発見や既存プロセスの改善など、競争力強化につながります。

不動産業界のDXの推進力となる「不動産テック」について、最新の動向と今後の展望を、以下の記事でくわしく取り上げています。ぜひ、そちらも参考にご覧ください。
不動産テックとは？最新の動向と今後の展望をわかりやすく解説！|不動産Web集客コラム

DX推進における課題と対策

DX推進には多くの利点がある一方で、導入や運用に伴う課題も存在します。この章では、DX推進における課題と対策について、次に挙げる3つの側面から見ていきましょう。

・コスト面の課題
・組織文化の変革
・技術的なサポート体制の構築

コスト面の課題

DX導入に際して最も多くの企業が直面するのがコストの問題です。初期投資として必要なシステム導入費用や機器購入費用、さらには人材育成コストが大きな負担となる場合があります。

運用コストについても、定期的なシステム更新費やサポート費用などが発生するでしょう。これらのコストを賄うためには、補助金や助成金の活用が重要です。

政府や地方自治体が提供する支援策を調査し、最大限活用すれば、コスト負担を軽減できます。さらに、クラウド型ツールの利用で初期費用を抑えつつ、柔軟な運用が可能となるでしょう。

必要に応じてスモールスタートし、効果を確認しながら段階的に導入範囲を拡大する戦略も有効です。コスト面の課題を効果的に解決し、持続可能なDX推進を実現できるようになります。

組織文化の変革

DX推進には、従来の業務慣習を見直し、新たな価値観を受け入れる組織文化の変革が求められます。これは、単に技術導入だけではなく、社員一人ひとりの意識改革を伴うものです。

特に、長年続けてきた業務手法や対面型のやり取りに固執する組織では、デジタル化に対する抵抗が生じる場合があるでしょう。このような課題を克服するためには、経営層が率先してDXの重要性を示すための、社員へのビジョン共有が重要です。

また、社内コミュニケーションを活性化し、デジタル化の利点を実感できる小さな成功体験を積み重ねるのも役立ちます。定期的な勉強会やディスカッションを通じた、社員同士の連携の強化は、文化変革を促進するでしょう。

技術的なサポート体制の構築

DX推進を成功させるためには、強固な技術サポート体制の構築が欠かせません。社内だけでなく、外部パートナーや専門企業との連携も重要な要素です。

技術導入時には、導入後のトラブル対応やシステムメンテナンスを迅速に行えるサポート体制を整える必要があります。また、社員が新しい技術に馴染むまでの間、外部の専門家によるトレーニングの提供が有効です。

外部パートナーとの連携では、信頼性と実績のある企業の選定や、継続的な関係の構築が求められます。そうすれば最新の技術や情報に、常にアクセスできる体制を維持できるようになるでしょう。

将来に向けた中小不動産会社の戦略

中小不動産会社が将来の競争環境において生き残るためには、持続可能性を重視したビジネスモデルの構築や地域特化型のサービス戦略が求められます。
また、デジタル技術の活用も、顧客との長期的な関係を築くための重要なツールです。この章では、将来に向けた中小不動産会社の戦略として、次に挙げる3項目を見ていきましょう。

・持続可能なビジネスモデルの構築
・地域密着型サービスの強化
・顧客との長期的関係構築

持続可能なビジネスモデルの構築

持続可能なビジネスモデルの構築には、DXを活用した新たな収益モデルやサービスの開発が不可欠です。たとえば、空き家や遊休不動産の活用を目的としたシェアリングサービスの提供が挙げられます。

また、データを活用した市場分析により、地域ごとの需要に合わせた物件開発や販売戦略を立案できるようになるでしょう。無駄のない効率的なビジネス展開が実現します。

さらに、クラウドファンディングを活用した資金調達モデルの採用による、新規プロジェクトへの投資リスクの軽減も検討すべきです。多様な収益源を確保し、安定した経営基盤を構築できます。

地域密着型サービスの強化

地域密着型サービスの強化は、中小不動産会社が大手との差別化を図る重要な戦略です。デジタル技術の活用で、地域特性に応じたカスタマイズされたサービスを提供できるようになります。

たとえば、地域住民向けのスマートフォンアプリを開発し、物件情報や地域イベント情報をリアルタイムで提供する仕組みを整えるなどが挙げられます。顧客の利便性向上と地域コミュニティへの貢献が可能となるでしょう。

さらに、地元の観光や特産品と連携したサービスの展開で、地域経済の活性化への貢献が期待されます。こうした取り組みは地域特化型サービスを提供し、地域住民や行政との信頼関係を深めるきっかけとなって、企業価値を高めてくれるでしょう。

顧客との長期的関係構築

DXを活用した顧客との長期的な信頼関係の構築は、収益の安定化に直結します。CRM（顧客関係管理）システムの導入により、顧客データを一元管理し、個々のニーズに合わせたサービスを提供できるようになるでしょう。

また、AIを活用したパーソナライズドマーケティングにより、顧客の嗜好や行動履歴を基にした的確な提案が実現します。顧客満足度の向上と、リピート利用の促進が図れるでしょう。

さらに、アフターサービスの充実を図ると、契約後も継続的な関係を維持できるようになります。たとえば、定期的な物件メンテナンスや相談窓口の設置などが有効です。

上記の3項目の取り組みを通じて顧客との信頼関係を深められ、長期的な顧客ロイヤルティを獲得できるでしょう。

まとめ

2025年問題は中小不動産会社にとって深刻な課題であり、DXの推進がその解決策として注目されています。業務効率化や顧客ニーズへの対応、競争力の強化など、DXを通じて多くのメリットを享受できるでしょう。
しかし、DX推進にはコストや組織文化の変革、技術的なサポート体制の構築など、多くの課題も存在します。これらの課題を克服し、持続可能なビジネスモデルを構築して、将来に向けた成長戦略を実現していきましょう。